2026年3月の記事一覧
校長室より「3月前半(=ファイナル)」の鳩高生への応援メッセージ
鳩高生の皆さん!最後の応援メッセージです
~Adoさんの「自叙伝小説」を題材に~
鳩高生の皆さん、こんにちは。校長の田中です。家庭研修も最終コーナーにさしかかりました。素晴らしい時間を満喫していますか?
さて、今回の応援メッセージは、皆さんへの最後の応援メッセージとなります。テーマは上記、Adoさんに登場してもらいます。人は、いつなんどきでも自信を持ってことに臨める訳ではありません。誰でも、ふとしたことで自信が揺らぐようなことがあると思います。そんな時のために記憶の中にストックしておき、参考にしてもらえたらと思います。
始めます!ドスの利いた声で世の不満を吐き捨てるように歌ったデビュー曲「うっせぇわ」は衝撃的だった。「うっせぇ うっせぇ うっせぇわ」と始まったかと思ったら「あなたが思うより健康です」にはのけぞった。社会現象化したAdoブームは、その後もヒットを連発して今に至っている。素顔を一切公開していない謎めいた存在に興味が尽きないが、そのベールが遂に解かれるのか?
去る2月26日に初の自伝的小説が刊行された。本屋さんに直行しようとも思ったが、新聞報道やテレビでもミニ特集を組んでいた。Adoさんらしいというのだろうか、ストレートに語るのではなく、小説のかたちをとって自身の半生を描いている。『ビバリウム Adoと私』という自伝的小説で、主人公「沢木アオ」が自分の弱い部分と向き合いながら、人生を切り拓く物語だという。
主人公の沢木アオは小説の中の架空の存在だが、赤裸々に語られるエピソードは、Ado自身の実体験に基づくという。今の自分を形成するきっかけのきっかけは幼少期や家庭環境などで、これをファンの皆さんに話したいなと思うことが何回かあったらしい。3年ほど前から小説化に向けて動き始め、作家の小松成美さんがAdoのお母さんや事務所の社長らに話を聞き、執筆した作品である。
Adoはデビューから瞬く間に人気アーティストになり、数万人規模の会場で歌うことも増え、昨年のワールドツアーでは33都市で55万人を動員したという。鳩高生の皆さんに学んでほしいことは、今や日本人アーティストとして最大規模のワールドツアーを成功させるような大・大・大スターのAdoは、劣等感のかたまりだったこと。これは幼稚園時代のエピソード。お絵描きの時間に花火の絵を書いていた。渦巻きのような青色とか黄色とか、きれいな色がぐるぐるしているのが沢木アオ(Ado)の花火だった。しかし、それを見た、放射状に広がる一般的な花火を書いていたお友達に否定されてしまう。それだけではなく、先生にも「いいえ、『ぐるぐる』は花火じゃないです。アオちゃん、間違っていますよ」と全否定されたエピソードが語られています。みんなと同じにできない自分と、それを面白がる視線。先生の一言で、幼いアオ(Ado)の心は粉々になったという。このことについて、当時を振り返った今のAdoさんは「良くも悪くも暗闇の部分、陰の部分。ある種、私らしさを形成したきっかけでもあった」と前向きにとらえると共に「子どもながらいろいろなことを考えていたんだな」と述懐する。その後も学校生活での違和感などから不登校になり、両親との関係にも悩んだ。
そんな自分のすべて受け入れて今のAdoさんがいる。素晴らしいことではありませんか。私たちはAdoさんと同じように生きることはできませんが、例えば、マイナスに受け止めてしまうようなことにもプラス面を見出してみてはどうでしょうか。そこから何かが生まれるかもしれません。
幼稚園時代のアオ(Ado)は、周囲のお友達と気持ちを分かち合うことはできませんでした。これは取り立ててさわぐほどのこともないよくある普通のことなのかもしれません。また幼稚園の子どもが、そこまで思いを巡らせるものではないかもしれませんが、Ado本人が、子どもながらいろいろなことを考えていなんだな、と振り返っていることを踏まえると、幼稚園の子どもゆえ、この悩みを上手く言語化できなかっただけで、なぜ気持ちを分かち合えないのかと考えていたかもしれません。ナチス・ドイツの強制収容所に拘束されながらも奇跡的に生還したヴィクトール・フランクルは、「すべての人間が分かち合える究極の意味が存在するのであれば、人は互いに平等な人間同士として理解し合うことができるはず。もし人を分けることができるのならば、その人の生まれや育ちによってではなく、その人、個人が身に付けた人間性によってでしか分けることはできない」と考えていました。
そして、著書『夜と霧』のなかで次のように言っています。「この地上には2種類の人間がいます。それも、品格のあるしっかりした「人間」か、またはそうでない「人間」か、この2種類だけなのです。そして、この「2種類の人間」は、両方とも一般的に広まっていて、どんなグループにも入り込み、至るところに浸透しています。つまり、どんなグループでも、品格のあるしっかりした人間だけで成り立っているということはないし、あるいは、しっかりしていない人間だけで成り立っているということもないのです」と。
この応援メッセージを読んでくれた皆さんは、この地上に「2種類の人間」がいるということを知りました。そして無意識のうちに、自分は、品格のあるしっかりした「人間」のグループを目指そう!と考えてくれたのではないかと想像します。少なくとも、こうした構造があることを知った皆さんは、見えない大きな力を得たといえると思います。これからも、皆さんのことを陰ながら応援しています。
★★★
今回が最後の応援メッセージになります。毎回、読んでくれた皆さんにはこの場を借りて「ありがとう!」を伝えたいと思います。次回は、ありませんが、次回に相当するのが3月10日(火)の「卒業証書授与式並びに閉校舎式典」での私の「式辞」です。卒業式というオフィシャルな場で皆さんに最後のメッセージを贈ります。
皆さんと交流した2年間は本当に楽しかった。ありがとう!
埼玉県立鳩山高等学校 第17代校長 田中 達哉